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神戸地方裁判所尼崎支部 平成5年(ワ)476号 判決

主文

一  被告は原告に対し、六六万〇六五一円及びこれに対する平成五年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、被告から「出資の受入れ、預り金及び金利等取締に関する法律の一部を改正する法律」(以下「出資法改正法」という。)附則第八項所定の日歩三〇銭(年利一〇九・五パーセント)の割合による金利で貸付を受けた原告が、被告の貸付方法は同法附則第九項に定める方法によるものではないから、既払の元本及び利息のうち利息制限法所定の金利を越える部分については過払であるとして、不当利得返還請求権に基づき、被告に対し右過払金の返還を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  当事者

被告は兵庫県商工部金融課に貸金業の登録をし、ジャパンファイナンスの商号で貸金業を営んでいる者である。

原告は喫茶店「喫茶エレガンス」を経営する者である。

2  本件貸付

被告は原告に対し、次のとおりの金員をいずれも日歩三〇銭(年一〇九・五パーセント)と定めて貸し付けた。

(一) 平成三年四月一日 五〇万円

(二) 同年六月五日 七〇万円

(三) 同年八月一九日 七〇万円

(四) 同年一一月六日 七〇万円

(五) 同四年一月一八日 七〇万円

(六) 同年四月二日 七〇万円

(七) 同年六月一二日 七〇万円

(八) 同年九月三日 一〇〇万円

(九) 同年一一月二六日 一〇〇万円

(一〇) 平成五年二月二二日 一〇〇万円

3  原告は、右各貸付につき、別表計算書の「支払日」欄記載の日に、「返済金額」欄記載のとおりの金員を返済した。

4  右各貸付及び返済につき利息制限法の利率を適用し、超過利息を順次貸付元金に充当すれば、別表計算書のとおりとなり、その過払金は六六万〇六五一円となる。

5  返済及び取立の方法

被告は、原告に返済金を原告指定の銀行預金口座に振り込ませ、同指定口座のキャッシュカードを原告から預かり、同銀行の支店から引き出す方法で取り立てた。

二  争点

被告の取立方法は、被告が出資法改正法附則第九項三号に定める方法による取立に当たるか否か。

被告は次のとおり主張する。

1  被告が原告からキャッシュカードを預かり、そのカードを使つて銀行から貸付金の回収をした経緯は以下のとおりである。

平成三年四月一日ころ、被告担当者山本明が原告の店(喫茶店)に赴き、五〇万円の貸付をした際、原告の夫から「金融屋が毎日店に来られたら困る。日賦は銀行振込にしたつてくれへんか。」と言われ、原告も、「そうして下さい。その方が助かるし、手数料もかかれへん、銀行記帳で領収書代わりになるから、その方法でお願いします。」と懇願し、原告所有のキャッシュカードもそのころに右山本に手渡した。

ついで、平成三年夏ころ、払戻しの際原告から入金されていないことがあつたので、被告事務員若松志津子が原告に対し、「銀行振込の方法は止めてほしい。」と申し出たところ、原告は、「これで続けて欲しい。お願いやから。」と懇願し、その後も同様のやり取りが数回あつたが、その都度、原告からの返答は全く同じであつた。

右のとおり、日賦の弁済場所は原告の指定した住友銀行尼崎支店であり、被告は右指定に基づいて右銀行支店に赴いて取り立てたのであるから、とりもなおさず、出資法改正法附則第九項三号における「貸付の相手方の住所」において取り立てる方法によつたものであると評すべきである。

したがつて、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制法」という。)四三条にいういわゆる「みなし弁済規定」の適用を受け、利息制限法所定の金利を越える利息の支払も有効な利息債務の弁済とみなされるものである。

2  仮に、出資法改正法附則第九項三号における「貸付の相手方の住所」において取り立てる方法によつたものであるといえないとしても、本件取立の方法は、専ら原告の再三に渡る懇願に基づいてなされたものであるから、原告の主張は、原告が被告に違法行為をさせておきながら、これを出資法改正法違反と主張するものであり、自らの違法行為を棚にあげて、これを被告に転嫁しようとする極めて不当な主張であつて、信義則上許されない。

したがつて、民法一条二項により原告の請求は棄却されるべきである。

第三  争点に対する判断

一  貸金業規則法三条一項の登録を受けて貸金業を営む貸金業者であつて、出資法改正法九項各号に定める特別の業務方法のみによつて貸金業を営む者については、日賦貸金業者として、日歩三〇銭(年利一〇九・五パーセント)の割合による金利で貸付をすることができることとなつている(出資法改正法附則第八項、第九項)。

右にいう「特別の業務の方法」とは、「1 主として物品販売業、物品製造業、サービス業を営む者で大蔵省令で定める小規模のものを貸付けの相手方とすること。2 返済期間が百日以上であること。3 返済金を返済期間の百分の七十以上の日数にわたり、かつ、貸付けの相手方の営業所又は住所において貸金業者が自ら集金する方法により取り立てること。」の三つの要件を満たす方法であり、このような方法による貸付を行う貸金業者について、高利の貸付を特例として認めた趣旨は、小規模な小売業者等で、比較的長期の資金を必要とするが、毎日の売上げから小額ずつ、しかも貸金業者に出向いてもらつて返済してくる方法以外に返済の目処が立たない者についての資金需要にこたえ、かつ、このような返済方法によると貸金業者の毎日の集金のコストは多大なものになることを考慮したことにある。

二  本件においては、前記争いのない事実記載のとおり、被告は、原告に返済金を原告指定の銀行預金口座に振り込ませ、同指定口座のキャッシュカードを原告から預かり、同銀行の支店から引き出す方法で取り立てたものであるが、このように貸金業者がキャッシュカードを預かり、これを用いて賃金を取り立てるという方法によると、貸金業者及び借主にどのような影響があるか検討する。

借主にとつては、銀行まで入金にいかねばならないという手間(キャッシュカードによる入金ができないのでその手間は大きい。)がかかる上、引出手数料の負担を免れるためには、貸金業者に銀行営業日以外の日における引出や銀行営業日であつても手数料のかかる時間帯における引出を遠慮して貰うことを依頼せねばならず、また、手数料なしで引き出せる時間帯に貸金業者が返済金を引き出せるようにするためには、入金を前日にするか、当日の相当早い時間にしなければならないこととなり、営業終了時刻の遅い小売業者(借主)にとつては、毎日の売上げから小額ずつ返済するという方法によることはできないという不利益を負うこととなる。

一方、貸金業者にとつては、当該キャッシュカード発行銀行であれば、どの支店からでも引き出せることとなるから、その集金のコストは、貸金業者が自ら貸付の相手方の営業所または住所まで赴いて集金するより相当低いものとなるばかりでなく、銀行の営業日に手数料のかからない時間帯に引き出すということは、遅い時間や休日の取立をする必要がないということであるから、集金のコストはそれだけ低いこととなる。

したがつて、借主に返済金を借主名義の銀行口座に振り込ませ、そのキャッシュカードを預かり、同カードで返済金を引き出すという方法による取立は、前記出資法改正法附則第八項、第九項の趣旨に反し、同附則九項三号にいう取立にあたらない。

なお、本件についても、《証拠略》によれば、被告は、平成三年四月二日に開設された太陽神戸三井銀行(さくら銀行)武庫之荘支店の原告名義の口座から、同月九日から同四年九月二日までの間、同銀行の別支店からキャッシュカードで返済金を引出しており(通帳記載の店番号は359であるのに、引出しの際の記帳はカード-351となつていることから推認できる。)、同月四日以降は、同三年六月一九日開設の住友銀行武庫之荘出張所の原告名義の口座から、同四年九月四日から同五年四月二七日までの間、同銀行の同出張所又は別支店からキャッシュカードで返済金を引出しており(通帳記載の店番号は583であるのに、引出しの際の記帳は符号欄に583、536、127、531となつていることから推認できる。)、いずれの口座においても、被告の引出しについては、その殆どが入金のあつた日に、その入金額と同額の引出しがなされ、これにつき手数料は取られていないことが認められ、右認定事実によれば、被告の取立方法は到底、出資法改正法附則第九項三号にいう取立と認めることはできない。

三  次に、被告は、本件取立の方法は専ら原告の再三の懇願に基づいてなされたものであるから、原告の過払金の返還請求は信義則上許されないと主張するが、仮に原告の懇願に基づくものであるとしても、前記の、本件取立の方法により借主(原告)が被る不利益と貸金業者(被告)が下げることのできるコストを考慮すると、原告の過払金の返還請求は信義則上許されないということはできない。

以上によれば、原告の本件請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白神恵子)

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